'18年7月27日~29日 北アルプス 嵐の燕岳~常念岳!(後編)

f:id:arakabu625:20191114132824j:image(燕岳と山男)

後編です。【前編はこちらからどうぞ

 

■(2日目)朝

ご来光を拝もうと4時過ぎに食堂に並び、朝ごはんを食べて外に出たが、辺りはガスにおおわれていてご来光は早々にあきらめる。雨混じりの風も出てきていた。

 

今日の行程をどうしようか、とは実はこの時あまり悩まなかった。空を見上げ、下山するほどでもないような気がしていたからだ。よくわからないけど、山の天気は2時間後とか6時間後とか10時間後とかにどうなるかを予想して判断しなくちゃいけないんだろう、難しいことだけど。でも、この時の俺たちにはそんな先を見越して下山の判断をすることは無理だった。これが経験値の乏しさであり、山の天気をなめていたと言われれば言い返す言葉もない。

 

多分この日、200人以上はいたと思う燕山荘の一般登山客のうちで下山せずに縦走に向かったのは俺たちを含めてほんの一握り、10名にも満たなかったんじゃないか。事実、常念小屋に向かう途中で駆け込んだ大天荘という山小屋では、この日100人を越える予約客のほとんどがキャンセルで宿泊客は10人を切っていたし、常念小屋でも同じような状況だった。

 

■常念小屋へ

ということで、俺たちはレインウェアに身を包み、小雨の中燕山荘を出て常念小屋への縦走ルートに歩を進めたのであった。6時過ぎくらいだったかな、割りと元気に。

 

この日俺が撮った写真は一枚しかない。徐々に雨も風も強くなってきて、手袋はすぐにグショグショに。手が凍えて1ミリ足りともスマホを取り出す気にならなかった。本来ならば槍ヶ岳から穂高の峰々が連なる北アルプスの主稜線と平行する超絶景ルートを歩いているはず。しかし、現実はレインウェアのフードのゴムを目一杯締め、うつ向きながらただ足元を見て歩いていた。一応先頭を歩いていたので、ハイマツと岩の混じる道では雷鳥でもいないかなー、いたらみんな元気出るのになーなんて目を凝らしながら歩いていたが見つけられなかった。

 

雨風のピークと俺たちの疲労のピークは、喜作レリーフを見かけた辺りから大天荘までの1kmほどのガレ場の登りだったと思う。特に、《大天荘まで500m》の標識を見つけてからが一番辛かった。雨も風もかなり強く吹き付けてくるなかでの登り。この時まりちゃんは『ヘリコプターで救助される自分を想像しながら歩いてた』と後で言っていた。そのまりちゃんの後ろを歩いていたアイミ君は、声を掛けても無反応・無表情のまりちゃんをこの時マジで心配していたらしい。残り300m辺りでちかちゃんから配給された飴に力をもらい、俺たちはほうほうの体で大天荘の入り口にたどり着いた。時間は9時半過ぎ、燕山荘から3時間を超える道のりだった。

f:id:arakabu625:20191114092151j:image(大天荘。ストーブで手袋やタオルを乾かす)

 

大天荘は俺たちが歩いてきた常念山脈の稜線上にある山小屋で、大天井岳(2,922m)の山頂直下に建っている。そのまま表銀座コースを槍ヶ岳に向かうルートと常念岳方面に向かうルートの分岐点にあたるところだ。晴れていれば、北アルプス有数のビューポイントらしい。

 

その大天荘にずぶ濡れのまま駆け込んだ。昼食の準備まで小一時間ほどかかるということで、それまでストーブのある場所で休ませてもらえることになってホッと一安心。そして、正直もうこれ以上この雨風の中を動けないと感じていた俺たちは、ここに泊まらせてもらえないかと山小屋のお兄さんに頼んだのだった。

 

台風のせいで100人を超える宿泊のキャンセルがあったと言っていたし、山小屋は避難小屋的な機能も担っていると聞いていたが、お兄さんの返事は意外なものだった。

 

「天候は今夜にかけてますます悪化の方向です。さらに明日はどうなるのか予測がつきません。明日(日曜日)中に帰らなくちゃいけないんじゃないですか?であれば、まだ動けるこの時間帯に常念小屋まで移動しておいた方がいいと思います。そこからなら下山まで3時間、明日中に帰れる可能性が高くなると思いますよ。但し、下山ルートの一ノ沢の増水は小屋を出る前に確認するようにしてください」

 

こんな山のプロの助言に素人の俺たちが口を挟む余地はない。昼食をとったら常念小屋までもうひと頑張りしようとみんなでうなづき合った。

 

11時半過ぎに大天荘を出発。雨も風も少し和らいだような気もするが、よく覚えていない。出発前にトイレに入ったりして、みんなより少し遅れて小屋を出た俺は100mほど先を歩いている3人を追いかけた。気が付くと前の3人が立ち止まっていて、一番後ろのまりちゃんが振り返って俺を手招きしている。近づいていくと先頭のアイミ君が雨の中スマホを出して中腰で何かを撮ろうとしていた。「ラ・イ・チョウ」まりちゃんが小声で言った。

 

まりちゃんが送る視線の先に、つがいのライチョウがいた。黒くて丸々と太ったライチョウが葉っぱの芽かなにかをついばみながら俺たちの周りを歩き回っている。全然逃げようとしないんだな。これだからすぐ猟師につかまっちゃうんだ。

f:id:arakabu625:20191114123605j:image(人生初ライチョウ

 

もっとずっと見ていたかったが、目指す常念小屋まではコースタイムで3時間以上。いつまでもこうしてはいられない。再び歩き始めると、しばらくしてアイミ君がまた立ち止まった。雨の中、アイミ君がスマホを差し出すその先を目で追うと、なんと今度はライチョウの親子だ! 2羽のひなが親鳥の後をちょこまか歩き回っている。あ、そっちに行ったらはぐれちゃうよ、なんて思いながらまたしばらくその様子をみんなで見ていた。

f:id:arakabu625:20191114123743j:image(ハイマツに身を寄せる親子ライチョウ

本当にライチョウがいるんだ。台風が来てるけど、やっぱすごいぞ北アルプス

 

14時半頃、コースタイムよりも幾分早めに常念小屋にたどり着く。ライチョウに元気をもらったおかげだな。ああ、早くレインウェアを脱ぎたい。

f:id:arakabu625:20191114123908j:image(翌朝の常念小屋)

 

常念小屋でも100人近いキャンセルが出ていたらしく、この日の泊り客は俺たちも入れて10人ほど。普段はダメらしいが、特別にリュックも登山靴も全部乾燥室に持ち込む許可が出て助かった。

 

今夜0時くらいが雨風のピークで、風速20m超と大天荘で聞いていたが、常念小屋で見たテレビではすでに関東地方も暴風雨圏内に入っており、神奈川県では避難勧告が出ている地域もあるようだった。台風は迷走を続け、今夜近畿方面に上陸しそうなことをニュースで言っていた。

 

なにはともあれ、やれやれだ。

 

体と荷物を乾かし、温かい夕食をいただいて、少しお酒を飲んだ。ああ、幸せだ。

f:id:arakabu625:20191114124058j:image(明日の生ビールをかけて)

 

21時頃就寝、爆睡。夜中の嵐の音にみんなは目を覚ましたらしいが、俺は明け方まで熟睡していて全然気付かなかった。ンガー💤

 

■(3日目)下山

翌朝もまだ雨は残っていた。時折窓の外のトタン屋根を雨が激しく打ちつけている。しかし雨が止んでいる時間も増えてきた。これなら下山は問題なさそうだと判断し、帰り支度を始める。8時ちょうど、俺たちは再びレインウェアに身を包み、分厚いガスに覆われた常念小屋を後にした。常念岳のピークハントはまた今度ということだ。出発前に悪天候を心配した顧問のうがちんからも「山のまた今度はよくある話」という心得を聞かされていた。うーん、深いぜうがちん!

f:id:arakabu625:20191114124232j:image8:02 出発

f:id:arakabu625:20191114124330j:image(常念小屋を後にするアイミ君)

 

小屋を出てすぐ、常念岳へ向かう分岐の辺りで俺たちの下山ルートから登ってきた一人の登山者とすれ違った。登山口から3時間以上はかかっているはずだから、彼が夜明けとともに入山したのだとしたら天気はこれから快方に向かうということだろうと一安心した。

 

一ノ沢登山口に向かう下山はすこぶる順調。沢沿いの登山道は何度も渡渉を繰り返す、とても気持ちのいいルートだった。周囲は相変わらずガスっていたが、遠くに見える下界は太陽の光でキラキラしてきた。途中でレインウェアも脱ぎ、いろんな花の写真を撮ったりして、最後はのんびりと山歩きを楽しんだ感じ。

f:id:arakabu625:20191114124436j:imageニッコウキスゲを撮るちか&まり)

 

下山中のトピックスは、俺の後ろを歩いていたちかちゃんが珍しく三度も叫んだことくらいかな。一度目は浅い沢を渡ってるときに足を取られて水の中に転倒「キャッ」。二度目は大きなガマガエルに道をふさがれて「ギャ〜ッ」。三度目はこれを渡りきれば登山終了という木の橋で滑って転んで「グワッ」。(今回の山行幹事のちかちゃん、お疲れさまでした)

 

常念小屋から3時間ちょい、ほぼコースタイム通りの11時過ぎに俺たちは一ノ沢に到着した。予約手配していたタクシーに乗り込み、しゃくなげの湯へ。温泉で3日間の汗と涙と鼻水を洗い流して、至福の一杯を流し込む。

f:id:arakabu625:20191114124633j:image「かんぱーい!」


このあと穂高駅まで戻り、穂高神社の大鳥居の前で新宿行きのバスを待っているときにアイミ君がポツリと言った。

「あれ、常念岳じゃないかな」

 

アイミ君が見ていた方向、穂高駅の遥か上空にきれいな二等辺三角形の大きな山が浮かんでいた。そうか、あれが常念岳か。最後にやっとその姿を見ることができたんだ…

 

こうして、縦走部初めての北アルプスの山旅は無事に終了した。

 

終わり

 

(おまけ)

f:id:arakabu625:20191114124713j:image燕岳のバッジ

f:id:arakabu625:20191114124740j:image誕生日をお祝いしてもらった!

f:id:arakabu625:20191114124848j:image四人のリュック

 

(おしまい)

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