'18年8月13日~14日 南アルプス 北岳テント泊!


f:id:arakabu625:20180822193621j:image北岳に向かう俺)

 標高2位を誇る高峰でありながら、そんなことはいいから山頂に立ってみろと言いたげに、黙してどっしりと座する北岳

 頂へと、激しくガレた岩の斜面を一心に歩を運べば、足もとには可憐な花々が咲き競う。

 山頂からは美しき富士を望み、北岳に次ぐ間ノ岳は稜線続き。壮大な景色に感動し、けなげな花にほっと安らぐ、アグレッシブに攻めて居心地のよさを感じる北岳へ。

《アルプストレッキングサポートBOOK 2018》

⛰️ガイドブックのこんな一節に心を震わせた私は、今年の夏休みに一人南アルプスへ向かいました。目指すは北岳。言わずと知れた南アルプスの盟主です。

今回は雲取山に続く二度目のテン泊登山で挑みます。さて、どうなりますことやら、以下ご覧いただけましたら幸いでございます。

 

■(前日)芦安へ

車中泊用にコールマンのでかくて重い寝袋とマット、寝酒用に保冷袋に入れた缶ビールを車に積み込んで北浦和の自宅を出発したのが20時過ぎだった。さあ、いよいよ夏休みの冒険旅行(自称)の始まりである。目指すは南アルプス北岳間ノ岳。富士山に次ぐ、国内第二位と三位の標高を誇る山に一人で挑む。俺にとっては大冒険だ。

 

北岳登山の起点となる広河原へはマイカーでは行けない。南アルプス林道が一般車の通行を禁じているからだ。車は芦安の市営駐車場に停めてバスか乗合タクシーを使うことになるのだが、芦安を5時台に出るバスに乗るために今夜中に芦安まで行って車中泊をする。アイミ君も言っていたが、南アルプスは車がないと少々行きにくいようだ。他の山域よりも奥行があるというか山深いというか。

 

圏央道~中央自動車を経て夜の南アルプス市へ入り、ほぼ予定通りの23時過ぎに芦安第一駐車場に到着。しかし、俺と同じような車中泊組がうじゃうじゃいるんだろうと想像していたのに、夜の第一駐車場は狭くて閑散としていた。「?」なんだか釈然としないまま就寝。疲れていたし、この状況が不安だったせいもあって、せっかく持ってきた缶ビールにも手を付ける気にならなかった。

 

■(1日目)芦安~広河原

5時前に起床。弁当を食べて辺りをうかがうが相変わらず人の気配がしない。どういうことだろう?ただ、駐車場の前の道路はミニバンが頻繁に通過し始めている。あれは乗合タクシーじゃないだろうか。準備を済ませ、5時半発のバスに乗ろうと《バスのりば⇒100m先》の矢印の方向に向かうと、そこには広い駐車場があって車がぎっしり停まっていた。道路を挟んでバスのりばもある。登山者も沢山いた。

芦安第二駐車場。

そうか、ここが芦安のメインの場所だったんだ。向こうのほうに第三駐車場も見える。第一駐車場だけがぽつんと離れてたんだな。やっと芦安の状況を把握できた。何でも初めてはこんなもんだね、さあバスに乗ろう。

 

広河原に6時半頃到着し、インフォメーションセンターみたいな建物のなかでゆっくり準備をして出発。ここから標高差1600m以上を一気に登るのだ。

f:id:arakabu625:20180822125152j:image(広河原)

 

いきなり俺の大嫌いな吊り橋が現れるが、ここでうじうじしている場合ではない。怖いよーと弱音を吐ける仲間もいない。息を止め、下を見ないようにして渡り、広河原山荘の手前からようやく入山したのが7時くらいだった。

f:id:arakabu625:20180821183937j:image(吊り橋)

f:id:arakabu625:20180821184056j:image(登山口)

 

■広河原~二俣

広河原から北岳を目指すルートは3つある。今回俺が取ったルートは大樺沢から二俣を八本歯のコルへ向かう左俣ルート。有名な北岳バットレスを横に見ながら八本歯のコルというなんだかよくわからないが恐ろしげな名前の場所を通る。そのコルの直下に丸太の梯子がいくつもかかっていて、写真で見るとかなりの高度感がありそうなのだ。北岳山荘のHPでは雨が降ったら通行禁止、晴れていても下りは通らないようにという注意書があって、高所恐怖症の俺には無理なのではないかと散々悩んだルートだった。そのルートを行く。なんてったって冒険だし、晴れてたし。

f:id:arakabu625:20180821184541j:image(登ってきた道を振り返る。いい天気だ)

 

背中のバルトロは今回も16kg。登り始めはこの重さで体が前後左右に振られていたが、しだいに慣れてきてふらつくこともなくなった。八本歯のコルや梯子でバランスを崩したらえらいことだ。

 

心配していた天気は今のところ大丈夫そう。ただ、予報は今日も明日も午後から雨になっていたので覚悟はしている。それよりも心配なのは今夜の風だ。なんせ3,000m近い稜線でのテント泊なのだ。風が吹いたらどんなことになるのか想像もつかない。俺の山岳テント泊経験値は6月の雲取山奥多摩小屋1,750m)一度きりなのである。

f:id:arakabu625:20180822191702j:image(二俣。ここまで2時間。この先まだ4時間以上。中央に俺のバルトロ)

 

■二俣~八本歯のコル

暑い。汗が止まらない。ナルゲンボトルの水がみるみる無くなってくる。振り返ると、鳳凰三山らしき山並みが見えた。少し雲が厚くなってきた。

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北岳はその武骨な山容からは想像しがたいが、花の山としても有名だ。実際あちらこちらでお花畑を見ることができた。一人だし、気ままに立ち止まれるので、今回は花の写真をたくさん撮ったが、北岳で一番有名なキタダケソウは梅雨の頃に咲く花らしいので見ることができなかった。

f:id:arakabu625:20180822134801j:image(お花畑の向こうに北岳

f:id:arakabu625:20180822191215j:image北岳の花1)

f:id:arakabu625:20180822191346j:image北岳の花2)

 

入山から3時間が経過。雪渓を左手に見ながら岩混じりの急坂を八本歯のコル目指して進む。7月だとこのルートは雪渓の上をキックステップか軽アイゼンで行かなければならないらしいが、今の時期は夏道が現れているので安心して歩くことができる。

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しばらくすると右手上方にゴツい岩の壁が見えてきた。あれが有名な北岳バットレスだろう。

f:id:arakabu625:20180822200547j:image(名前からして凄い、バットレス

さっきから気になっていたのだが、空の高いところで雷が鳴り始めたようだ。

 

八本歯のコルを目指して急坂を登る登る。そして、いよいよ丸太の梯子が現れた。疲れもたまってきていたし、背中の荷物も重いので、バランスを崩さないよう慎重に取りつく。

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いくつ梯子を登っただろうか(まあまあ梯子だらけだった)。周りがガスに覆われていたことが功を奏したのか、恐れていた高度感はそれほど感じずに八本歯のコルまでたどり着く。正直こんなもの?という感じだった。

f:id:arakabu625:20180822173749j:image(八本歯のコルあたり)


そこから始まる稜線も結構左右が切れ落ちていたが、これまたガスのお陰でそれほどの恐怖を感じることもない。なんだ、割と楽勝だったなと気を抜いた頃に、前方に恐ろしげな梯子が見えてきた。

f:id:arakabu625:20180822174021j:image(八本歯のコルを進むと、)

f:id:arakabu625:20180822130136j:image(ラスボス現わる!)

 

ゴロゴロと鳴る雷の音もだんだん間隔が狭くなってきたようだ。しょうがない、行くしかないよなと梯子に取りついた時にとうとう大粒の雨が降り出した。掴んでいた丸太に雨がボツボツボツと黒い点を描き始める。なんだ、最悪だな。いや、この丸太が雨を含んで滑り始めるまでにはまだ時間がある。それまでにこの梯子を登りきろう。そんなことを考えながら、そして焦っちゃだめだぞと言い聞かせながらラスボスを三点支持でなんとかクリア。その後雨が激しくなってきたのでレインウェアを着込み、再び岩だらけの急坂に取りついたのだった。高所恐怖症の割りには頑張ってるなー、俺。

 

北岳山荘へ

岩稜帯を登るうちに雨は小降りになり、雷も高いところでゴロゴロ鳴るばかりだったので一息つけるようになった。しかし、登り始めて5時間半、疲れはピークに来ていて5分と歩き続けられない。大きな岩を越えていくので一つ一つのステップが高いのだが、足が上がらない。疲れた。まだ先は長そうだなー。濡れた岩に滑らないようにしなくちゃ。

f:id:arakabu625:20180822180248j:image(岩の先に分岐が見えてきた)

 

ようやく山頂に向かうルートから北岳山荘に向かう分岐点に出た。そこに同じように疲れ果てて座り込んでいた一人の登山者が「唯一のご褒美の景色もこれじゃあね」と、ガスに包まれた周囲を見回して恨めしそうに呟いていた。

f:id:arakabu625:20180822180356j:image(みんな疲れていた)

 

ここで俺はルートミスをしてしまう。

あとで地図を見て気が付いたが、八本歯のコルを通過し北岳山頂に登って行く途中、間ノ岳北岳山荘)方面へ枝分かれするルートは2つあったのだ。俺が取ったルートは手前のルートで、地図には《間ノ岳への近道》と書かれているトラバース道のようなものだった。予定ではその先の吊尾根分岐から稜線沿いを北岳山荘に向かうつもりだったのに。そして、間違って進んだこの近道がこの日一番怖くて、一番きれいだった。

f:id:arakabu625:20180823121821j:image(近道?)

 

斜面に沿ってアップダウンのない道が続く。途中、何度か高度感満載の恐ろしげな場所を渡った。一番怖かった箇所では右は岩壁、左は足元から切れ落ちていている幅30cmほどの橋が岩肌を回り込むように張り付いているだけ。下は見えない、見たくもない。ここは高所恐怖症の面目躍如といった感じでまあ怖かった!結局木の橋まで体を移すことができず、岩側にへばりつきながら通過した。こんなルート、ガイドブックに書いて無かったよなーとその時は解せなかったが、遠く俺の後ろからも一組の夫婦が続いて来ていたし、まさかルートをミスっていたとは思わなかった。

 

怖い思いをしたが、おかげでとてもきれいなお花畑を見ることもできた。ガスがかかっている中でそこだけがパアッと輝いているように見えて、思わず「すごいなー、北岳」と大きな声を出してしまったほどだ。疲れが溜まったときは大きな声を出すと少し気がまぎれる。

f:id:arakabu625:20180824080328j:image(お花畑。伝わらないと思うけど、きれいでした)

 

途中で合流した夫婦と「なかなか北岳山荘に着きませんねー」としゃべりながら、岩だらけの稜線に出る。その後もいくつかの岩の丘を越えながらひたすら歩くと、眼下にガスに煙る北岳山荘の赤い屋根がやっと見えてきた。俺の先を歩いていたご主人が、俺より後を歩いていた奥さんに「山荘が見えたよ〜」と嬉しそうに声をかける。先ほどの分岐地点から1時間が経っていた。

f:id:arakabu625:20180823122300j:image(俺の後ろに北岳山荘)

 

北岳山荘到着13時半。広河原の登山口からたっぷり6時間半以上かかっていた。疲れた。足が痛い。

 

■テント場にて

受付でテント場代800円を支払い、テントを設営(雨が止んでいたので助かった)。15時過ぎに遅い昼食を山荘で買った缶ビールで流し込み、そのままシュラフも出さずに眠りこんだ。

f:id:arakabu625:20180823122415j:image(黄色い方)

 

18時頃目が覚めた。体が痛い。外に出てみるが東側はガスで眺望無し。

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稜線まで上がると西側は夕焼けショーの真っ最中だった。3,000mの稜線で多くの人が夕日を見ている。この人たちもみんな俺と同じように苦労してここまで登ってきたんだな。

f:id:arakabu625:20180823210013j:image


そのうち誰かが「ブロッケン現象だ!」と騒ぎ始めた。ガスだらけの東側を振り返ってみるとそこに自分の影が映っていて、大きな虹の輪っかができていた。手を挙げるとガスの人影も手を挙げた。あれは俺の影だ!写真を撮ったが、隣の男性も俺だ俺だと騒いでいた。

f:id:arakabu625:20180823210140j:image(見えるかなー)

 

今夜のディナーは豚の角煮。一人で全部は少し持て余したが、缶ビールと一緒に美味しくいただきました。外は雨が降ったり止んだりしていたが、心配していた風がなかったので安心して眠りについた。

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次に目が覚めたのは0時くらい。テントの外がほんのり明るいのはなんでだろうと、顔だけフライシートから出して外を眺めたら、夜空に満天の星がきらめいていた。そして、ガスだらけだったテントの正面(東側)には周囲のわずかに明るい空を切り取るように漆黒の影がかすかに見えている。あの黒い影の形はもしかして…。うん、明日の夜明けが楽しみになった。

 

■(2日目)3,000mの夜明け

4時に目が覚めると、すぐにフライシートのファスナーを開ける。夜はまだ明けていなかったが、テントの真正面に大きくすそ野を広げた富士山がはっきりと見えていた。やっぱりあの黒い影は富士だったんだ。

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徐々に夜が明けていく。目の前の富士山を見ながらコーヒーを淹れた。なんて贅沢な朝の時間を過ごしているんだろう、俺。

f:id:arakabu625:20180823210815j:image(テントの中から)

 

外に出る。山荘からもテントからも人が出てきて、みんなこの壮大な夜明けのドラマを見ていた。

f:id:arakabu625:20180823211408j:image(雲海に浮かぶ富士山)

f:id:arakabu625:20180823211025j:image(神々しい朝焼け)

f:id:arakabu625:20180823211204j:image大自然の神秘の色使い)

 

3,000mの稜線から眺める壮大な景色をたっぷり堪能し、朝ごはんの棒ラーメン食べてから撤収に移る。すべての荷物をパッキングし終えた後で、思い切ってあれを取り出した。そう、今回の秘密兵器はミニ三脚だ。ちょっと恥ずかしいが、タイマーを使ってこんな写真も撮ってみた。

f:id:arakabu625:20180823211622j:image(カシャッ)

 

7時半頃に北岳山荘テント場を出発。稜線を左に向かえば間ノ岳だったが、今回は体力的に断念。(また今度だ)心の中でそう誓い、北岳の山頂を目指して歩き始めた。

f:id:arakabu625:20180823212110j:image間ノ岳は雲に隠れていた)

 

北岳山頂へ

稜線沿いにいくつかの小さな丘を越えながら少しずつ北岳に近づいていく。左手には山頂を雲に隠した仙丈ケ岳(3,033m)がずっと見えている。何個目かの丘の上にたどり着いた時に、どれ、仙丈ケ岳の写真でも撮っとくかとスマホを構えたら「ホー、ホー」という声が聞こえてきた。何かな?と足元を見ると、ハイマツの中からライチョウが飛び出してきた。

f:id:arakabu625:20180823212454j:imageライチョウとケルン)


ドキドキしながらライチョウのあとを目で追っていると、今度は「ピー、ピー」と鳴きながらヒナが現れた。1羽、2羽、3羽、4羽!全部で5羽のライチョウが俺のすぐ近くでうろちょろしている。うわーっ、てなもんである。写真や動画を撮ってしばらくそこを動けないでいると、俺の後から2人の若者がやってきたので、(しーっ、ライチョウがいますよ)と身振り手振りで教えてあげて、それでやっとその場を離れることができた。引き継ぎ完了ってやつだな。

 

再び歩き始める。徐々に北岳が大きく見えてきた。

f:id:arakabu625:20180823213248j:image


人が居ないのを見計らって、こんな写真も。

f:id:arakabu625:20180823213400j:image

 

8時半頃に吊尾根分岐を過ぎる。ほんとは昨日ここを経由して北岳山荘に向かうはずだったところ。山頂までもう少しだ。

f:id:arakabu625:20180823213557j:image8:28

 

そして9時前、俺はついに北岳の山頂を踏んだ。ライチョウと遊んだり、三脚で遊んだりしていたので、コースタイムの1.5倍くらいかかってしまった。ガスがかかって富士山方面の眺望はゼロだったが、そんな贅沢は言ってられない。ああ、やっと北岳の頂上にたどり着いたんだ。

f:id:arakabu625:20180823214132j:image8:50

 

頂上近くで淡いピンク色のタカネビランジも発見。

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9時過ぎから下山開始。登ってきた道とは反対側にルートをとる。北岳にある残り2つの山小屋を経由するルートだ。広河原まではまだ5時間近くかかる予定だから気は抜けない。


f:id:arakabu625:20180824070243j:image9:38(肩の小屋)


f:id:arakabu625:20180824070657j:image(途中のお花畑)


f:id:arakabu625:20180824070449j:image11:27(白根御池小屋)

 

広河原までコースタイムであと2時間の白根御池小屋で昼ごはん。少し気がゆるんでビールを追加。

f:id:arakabu625:20180824071033j:image

 

広河原発14時のバスを目指し、12時過ぎに腰を上げた。さあ、ラストだ~🎵

 

元気いっぱい!のはずが、足と膝の痛みがマックスでここからの2時間は結構苦労する。最後の方は左膝に古傷のチョウケイ靭帯炎の痛みが出て、足を引きずりながらの広河原到着となった。

f:id:arakabu625:20180824072131j:image13:55(無事下山)

 

芦安まで、ものは試しと乗り合いタクシーを利用してみたら至極快適だった。

 

15時頃に芦安の駐車場まで戻り、第二駐車場の前にあった温泉でこの二日間の汗と疲れを流して帰路につく。中央自動車道で帰省帰りの渋滞に巻き込まれながらも、20時過ぎに帰宅。こうして今年の夏休みの冒険旅行は無事に終わった。

 

終わり

 

(おまけ)

f:id:arakabu625:20180824073016j:image(山バッジ)

f:id:arakabu625:20191114194720j:image(逆さテントと富士山)

 

(今回の課題)

①3,000m級の山に対して今のキャラバンC1-02Sでは役不足。親指の腹に水ぶくれができていた。もっとシャンクの硬い靴が必要。

②バルトロのヒップベルトが俺にはオーバーサイズ。今回も腰骨が痛かった。サイズ交換を検討。

③5時間の下りは脚にダメージが大きかった。もっと積極的にストックを活用しよう。

 

おしまい