'19年8月24日~25日 南アルプス 鳳凰三山でバテる!(後編)

f:id:arakabu625:20190830073019j:image(岩陰に咲くタカネビランジ)

前編からの続きです。

⛰️端正な姿形から《山の団十郎》とも称される甲斐駒ヶ岳(2,967m)が、いきなり目の前に現れました。

f:id:arakabu625:20190830072139j:imageドン!

「うわ、すげえな」

きっと誰もがここに立つと同じようにつぶやくに違いありません。南アルプスの北端に独立峰のように屹立しているその山容は、これまで中央本線中央自動車道の車窓から遠くに眺めるだけでしたが、近くで見ると迫力満点です。かの深田久弥が『もしも山の十名山を選べと言われても、私はこの山を外さないだろう』と絶賛した山だけのことはあります。いつかは必ず登りたいと、あらためて思いました。

 

地蔵岳から観音岳薬師岳

地蔵岳を後にして、白砂の広場からアカヌケ沢ノ頭という小ピークへ向かいます。10分もかからずにたどり着いたその場所には、さらにド迫力の景色が待っていました。日本第二位の高峰、北岳が甲斐駒を上回らんばかりの迫力で目の前にそびえ立っていたのです。

f:id:arakabu625:20190830075028j:image北岳ドドーン!!

 

「うわ、こりゃまた…」

去年の夏休みに一人で登った時のことがまざまざと思い出されます。私が辿った大樺沢の雪渓や、仰ぎ見た北岳バットレス、ビビりながら越えた八本歯のコルもすべて遠くに見ることができました。あの山頂で長女の就職とアイミ君の手術の無事を祈ったっけなァ。

 

今回の鳳凰三山は急に思い立ったということもあって予備知識に乏しいままやって来ましたが、さっきから凄い景色の連続に圧倒されっぱなしです。この気持ちを自分一人の胸の内だけで留めることができなかった私は、同じように北岳を眺めていた単独行の方に「凄いですね」と声をかけ、ひとしきり山の話に花を咲かせてお互いの写真を撮り合いました。

 

アカヌケ沢ノ頭を後にして、次の観音岳に向けて岩場とザレ場が交互する稜線を進みます。右手にはずっと北岳をはじめとする白峰三山が見えている、というか、鳳凰三山の稜線と北岳が深い谷を挟んで向かい合っている感じ。

 

森林限界を超えた辺りから、こんもりと咲いているタカネビランジを沢山見かけるようになりました。去年、北岳の山頂近くで初めて目にしたとても綺麗な花です。今回、濃いピンクや淡いピンクなど、何種類かの色のバージョンがあることを知りました。
f:id:arakabu625:20190830125508j:image右下だけ ホウオウシャジン

 

もうすぐ観音岳というところで後ろを振り返ると、またまた素晴らしい景色が目に飛び込んできました。遠くにオベリスクと甲斐駒が並び、歩いてきた稜線や山肌は花崗岩の白さでまるで残雪のようです。去年登った北アルプスの燕岳の雰囲気にそっくり。

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10時ちょうどに二峰目の観音岳(2,841m)山頂に到着。ここが鳳凰三山の最高地点です。ここでは長居をせずに次へ向かいました。

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30分ほどで三峰目となる薬師岳の頂上が見えてきました。くどいようですが、この白さは不思議な感じです。標高2,700m超の景色に見えません。なにかの庭園のようにも見えます。

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10時39分、薬師岳(2,780m)山頂に到着。今朝鳳凰小屋を出発してから4時間半が経ちました。景色を堪能しながら、随分ゆっくりペースになりましたが、これで鳳凰三山の縦走完遂!

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山頂は白い広場になっていました。キャッチボールができるくらいに広い。そして、ここでも谷を挟んで大きな北岳が真正面に見えています。その北岳の手前に、あれ?

f:id:arakabu625:20190901082950j:imageあれはなんだ?

 

もう少し近寄ってみると、ほらこれ。まるでイルカ岩です。本家の燕岳のイルカ岩に負けないくらいのイルカっぷりじゃないですか?

f:id:arakabu625:20190901083350j:image北岳とイルカ岩

 

アルファ米をお湯で戻して昼ごはんにしました。アルファ米、食べられるまで15分って何気に長いんだよなー(いつも待てずに食べてしまいます)。

f:id:arakabu625:20190901084524j:imageムシャムシャ

 

■下山

11時半頃に下山開始。中道ルートを青木鉱泉までひたすら下ります。コースタイムで約4時間。体は少しきつくなってきたけどあとは下るだけだし楽勝だな、という感じだったのですが、これまでで一番苦しい下山になってしまいました。う~、今思い出しても辛くなる💧

 

下山に使った中道ルートは登りのドンドコ沢ルートに負けず劣らずの急坂でしたが、快調に下り、コースタイムで60分の御座石というポイントまで45分で到着しました。ここまでは楽勝ペースです。

 

しかし、さっきから少しずつ足に痛みが出てきていました。もう持病と諦めぎみなのですが、山歩きで3時間~4時間を過ぎると両足の親指の付け根から腹の辺りがジンジン痛くなるのです。だからいつも山歩きの後半、下りの時に痛むことが多い。今日はもう6時間以上歩き続けなので、とっくにリミットは超えていましたが、登りではそれほど痛みが出ないんですよねー。

 

残りのコースタイムは3時間だし、なんとかなるだろとたかをくくっていたら、痛みはジンジンからズキンズキンに変わってきました。もう多少休憩したくらいでは治まりません。下りの大きな段差に足を下ろす度にズッキン!と痛みます。ダブルストックに体重のほとんどをかけないと足を着けない状態になりました。

 

「痛てぇぇぇ、よ~~~っ!!」

前後に人がいないことを確認して、小さな声で何度か叫びました。

f:id:arakabu625:20190901112551j:image(シラビソの森を下る)

 

かなりの人数に追い抜かれて気付いたのですが、このコースはトレランの人がとても多いです。後ろから足音が聞こえて道を譲ると、8割くらいはトレランの人で、「あざーす」とかなんとか言いながら飛ぶように下りていきました。

 

ヨタヨタ下っているときに、二度も登山者の方が「大丈夫ですか?怪我しましたか?」と声をかけてくれました。人に声を掛けるって勇気のいることだと思うのですが、二人もの方に声を掛けていただきました。有り難いことです。それほど私がヨタっていたのかもしれませんが…。

 

二人目の方がスマホの地図を見せてくれて、

「現在地はここです。まだしばらくは等高線がつまってるのできつい坂が続くけど、ほらこの沢沿いの道に出たら傾斜はほとんど無くなりますから頑張ってくださいね」と優しく励ましてくれました。嬉しかったけど、あ~情けないなー。

 

沢沿いの平坦な林道に出てからも、もう休み休みでしか歩けなくなっていました。あたりは少し薄暗くなってきて、私を追い越す登山者はとっくにいなくなっています。15時には着くだろうと思っていたのが、すでに17時を回っている。その頃には沢の水を飲みに熊が下りてこないか、私はそれが一番心配でした。

 

結局、途中の御座石から残り3時間のコースタイムに対し、5時間以上かかって青木鉱泉までたどり着きました。時間は17時半。今朝6時に鳳凰小屋を出てから11時間以上の超ロングトレイルとなってしまいました。もうヘトヘト。両親指はズッキンズッキン。2時間前くらいから飲み水もなくなっていたので、喉もカラッカラ(鳳凰小屋以降、水場が一ヶ所もありませんでした。チェック不足を反省)。

 

なにはともあれ、あぁやっと着いた。まさにその場にへたり込む感じで、車のステップに腰を下ろしたのでした。

f:id:arakabu625:20190901121810j:imageもう歩かなくていい…

 

最高の天気のもと、予想を超える絶景に出会えた鳳凰三山の山旅は、こうしてなんとか無事に終えることができました。隠しテーマだった《明日の仕事に疲れを持ち越さない省力登山》は全然実現できませんでしたが、熊にも出会わず無事に帰ってこれたことですべてオッケーとすることにしましょう。

 

南アルプス鳳凰三山、侮るべからず!

 

(終わり)

 

■おまけ(帰りの話)

青木鉱泉の標高はまだ1,150mもあるので、しばらくの間は車1台しか通れないような細い林道をひたすら下ります。まずは自動販売機があるところまで早く下ろう(喉カラカラ)と運転していたら、鹿が二頭飛び出してきました。鹿はしばらく車の前を並走し、そして森の中に消えていきました。

 

(猿じゃなくて鹿か。さすが南アルプス)なんて思っていたら、今度は猿の群れが林道を横切りました。(おお、これはよくあるパターンだな)なんて思いながら猿をやり過ごし、さらに下ります。もう喉がカラッカラです。すると、100mほど先でまた何かが飛び出してきました。(ん?)

 

(……!)

飛び出してきたのは二匹の、いやいや二人の子供でした。林道の真ん中に立って、こっちに向かって手を振っているではないですか。速度を落としながら頭の中でこの状況を必死に分析しますが、答えは出てくるはずもありません。少しドキドキしながら車を路肩に停めると、二人の子供が走り寄ってきたので、窓を3分の1ほど開けました。

「ど、どうしたの?」

すると、見たところ小学校の高学年くらいの女の子が車の窓に顔を近づけて言ったのです。

「お願いです、助けてください!!」

 

(ゴクッ💧)ああ、なんか飲みたい…

 

おしまい

(ここまで読んで頂きまして、大変有難うございました)

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