'18年6月23日~24日 八ヶ岳しらびそ小屋~天狗岳

f:id:arakabu625:20181116174658j:image(雨上がりのしらびそ小屋に集まるリス)

⛰️昔々、八ヶ岳と富士山は「自分の方が背が高い」と毎日喧嘩が絶えなかったといいます。みかねた神様が二つの山の頂に樋を渡して水を流してみたところ、水は八ヶ岳から富士山の方へ流れていきました。八ヶ岳の方が高かったのてす。これに腹をたてた富士山は頭上の樋を振り回し、八ヶ岳を滅多打ちにしました。それで八ヶ岳は今のように八つに分かれたギザギザ頭になり、富士山よりも低くなりました、とさ。

さて、話は現代に戻ります。

梅雨の最中の6月23日から24日の土日にかけて、縦走部として初めての八ヶ岳へ山小屋一泊で行ってきましたので、以下レポートいたします。よろしければご覧ください。

 

(1日目)

■稲子湯へ

北浦和発5:23の電車に乗り込み、すぐにアイミ君へLINEを入れる。「起きてる?」前回の雲取山での寝坊事件がまだ記憶に新しい俺はアイミ君から「もう最寄りの駅にいる」という返事に胸をなでおろす。さあ、初めての八ヶ岳に向けて出発だ!

 

今回は縦走部のメンバー全員が参加(といっても4人だが)。アイミ君、ちかちゃん、まりちゃん、俺。部長のちかちゃん以外は去年から登山を始めた初心者ばかり。その初心者集団がついに八ヶ岳へメジャーデビューを飾ることになった。目指すは北八ヶ岳エリアの人気山小屋の一つ《しらびそ小屋》、そして天狗岳(西天狗2,646m)である。

 

7時前に高尾で全員が合流。ここからJR中央本線小海線と乗り換え、小海駅まで延々4時間の各駅停車の移動が続く。高尾での乗り換え時に俺がスマホを駅のトイレに置き忘れるというアクシデントがあったが、電車出発前に気が付いて無事回収、事なきを得た。

 

旅費を節約するために早起きして各駅で向かうことにしたが、いや~長かった💧。しかし、必ずいつかは目的地に着くもんだ。11時7分、北浦和から5回の乗り換えを経てようやく小海駅に到着。駅前からローカルバスに乗り換え、今回の登山口に選んだ稲子湯に着いたのは11時50分頃だった。そして、いつのまにか雨が降り始めていた。

f:id:arakabu625:20180626125932j:image(やっと着いた)

登山届が設置されているところに屋根があったので、そこでレインウェアを着込む。まりちゃんは登山を始めたときに買ったレインウェアをついに着ることになったわとぼやいていた。覚悟はしていたものの、やっぱり雨の中の登山は憂鬱だな。

 

温泉旅館の駐車場の軒下で雨をよけながら昼食をとる。ちかちゃんまりちゃん合作のバジルソースをからめたパスタと、俺が生米から炊いたイワシの炊き込みご飯を4人で分け合って食べた。そして準備を整えた俺たちは、13時前にようやく八ヶ岳の森へと分け入った。

f:id:arakabu625:20180626125829j:image(稲子湯の登山口)

 

しらびそ小屋へ

今日の目的地は登山口から2時間ほどの標高2,097m地点にある山小屋《しらびそ小屋》だ。八ヶ岳には個性的で人気の山小屋が点在しており、それが八ヶ岳という山域の魅力をさらに高めているのだが、しらびそ小屋もそんな人気の山小屋の一つになっている。

 

今回の山行の幹事であるまりちゃんの企画も、目的の半分以上はこの小屋に泊まることだった。山雑誌の紹介記事風に書くと、『しらびその森の中にあるみどり池の畔にひっそりと建つしらびそ小屋で、薪ストーブで焼いた厚切りトーストと山小屋のおやじが淹れてくれるコーヒーを小鳥のさえずりを聞きながら味わってみませんか?』といったところだろうか。山の楽しみはピークを目指すことだけじゃないことに気付かされる場所なのだ。

 

雨の中、少しうつむき加減になりながら黙々と登山道を進む。聞いてはいたが、八ヶ岳の森は本当に苔の森だった。その苔が雨を受けて、おそらく普段以上に生き生きと輝いている。

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二度ほど林道を横切りながら徐々に高度を上げていく。雨はいつのまにか本降りになってきていた。ちかちゃんが「雨が染み込んできた。中がびちょびちょに濡れてる」と言うので、「汗で蒸れてるだけじゃないの?」と俺。あとで聞いたら、数年前から登山を続けているちかちゃんのレインウェアは経年劣化なのか防水効果が実際にかなり落ちていたようで、山小屋に着いたら「新しいレインウェアを買う!」と宣言していた。

 

しらびそ小屋に向かう登山道は、前半こそゆったりとした苔の森の散策風だったが、途中からまずまずの傾斜を加えてきていた。雨は相変わらずの強さで降り続き、ぬかるんだ道に足をとられないようにひたすら前に進む。メンバーの疲労もそこそこ溜まってきていた時だった。先頭を登っていたアイミ君が急に立ち止まって言った。

 

「鹿だ…」

 

前方に目をやると森の中に一頭の雌鹿が立ってこっちを見ていた。距離にして20mくらいだろうか、苔の森の中で鹿が立っているそこだけ明るい。薄茶色の毛並みの白い斑点までがよく見えた。写真を撮ろうとスマホを取り出しかけたが、すぐに鹿はきびすを返して森の中へ駆けていってしまった。俺の前にいたまりちゃんが振り返って俺の手元にスマホがないことに気付き残念そうな顔をする。結局みんな写真を撮ることができなかったのだ。

 

鹿は今では森を食い荒らす害獣扱いなのは分かっているつもりだが、あんな風に森の中で突然出会うと害獣どころか森の神様の使いにすら見えてしまう。人間と鹿の今の関係がなんだかとても悲しかった。

 

鹿のおかげで少し疲れも薄らいだ。そのあとも降り続く雨の中、誰もスマホを取り出して写真を撮ろうとしなかったので多分だが、稲子湯から2時間かからずに(15時前)俺たちはしらびそ小屋に到着した。小屋の入り口には大きな水溜まりができていたことをよく覚えている。

f:id:arakabu625:20180629121934j:image(これは翌朝のしらびそ小屋)

 

しらびそ小屋にて

やっと着いた。これがしらびそ小屋か。けれど、暗くて中の様子がよくわからない。まずはレインウェアを干して、リュックを言われた場所に移動させる。レインカバーをしてたのにリュックの中まで濡れてるよ~とちかちゃんとアイミ君が嘆いていたので、着替えやダウン類はこんな防水のスタッフバッグに入れとくといいよと教えてあげた。「今回の教訓の一つね、ザックの中の防水」とちかちゃんが部長らしいことを言っていた。

 

雨と汗に濡れた髪や体やリュックを拭いて一階におりると、早速ガラス窓越しにリスのお出迎えだ。雨に打たれながらここまで登ってきた疲れと凍えていた体が一気に癒されていくのを感じた。

f:id:arakabu625:20180627171537j:image(リスが雨宿り。みどり池は雨の中)

 

「予約が早かったから」とあてがわれた奥の個室で、畳まれたままの布団にもたれてアイミ君と俺はしばしの仮眠。そのあと夕方になり、質素だけれど山の中でこれ以上何を望むのかというような美味しい夕食をいただいた。夕食後にはみんなで持ち寄ったお酒とおつまみで消灯(20時半)まで楽しい時間を過ごし、初めての八ヶ岳の森の夜が更けていった。

(明日は晴れるといいな)

 

(2日目)

しらびそ小屋の朝

4時前に目が覚めた。アイミ君の寝息が聞こえる。他の二人もまだ眠ってるのかな、雨は止んでるかな、などとうつらうつら考えながら時間が過ぎていく。一人でそっと個室を出て談話室に行ったら、昨夜お酒を飲みながらいろんな山の話をしてくれた東京の山岳会所属の女性が「天狗岳のモルゲンロートが綺麗でしたよ」と教えてくれた。窓の外を見てみると、なるほど雨は止んでいた。(やった!)

 

 6時頃みんなで小屋の外に出た。朝食は7時半からだと言われていた(しらびそ小屋名物の厚切りトースト&コーヒーの朝食を予約していたので、一般の朝食が終わったあとに準備されるらしい)。空は一面雲に覆われていたが、かろうじて雨は止んでいる。空を見上げながら、どうか今日はレインウェアを着なくて済むようにとみんな願っていたはずだ。

f:id:arakabu625:20180628183234j:image(アイミ君、ちか、まり)


早朝のしらびその森と、その向こうに見える天狗岳を静かな水面に映しているみどり池。その周りを散策しながら、雨が降っていない幸せを俺たちはじんわり感じていた。

f:id:arakabu625:20180627194259j:imageしらびそ
f:id:arakabu625:20180628204045j:image(朝ごはんの支度中)

 

小屋に戻ると俺たちより先にリスと小鳥の朝食が始まっていた。窓の外にしつらえてあるエサ台でまだ冬毛の抜け切れていない日本リスがヒマワリの種を一心不乱に食べている。隣のエサ台には赤いワンポイントが可愛いウソが森からやって来た。

f:id:arakabu625:20180628133127j:image(リスの朝ごはん)

f:id:arakabu625:20180628132740j:image(ウソの朝ごはん)

f:id:arakabu625:20180628133349j:image(俺たちの朝ごはん。これに野菜とフルーツと目玉焼きのプレートが付いていた)

 

f:id:arakabu625:20191029173203j:image(リスの撮影に夢中のちか&まり)

窓際のリスとウソの食事風景を見ながら、楽しみにしていた厚切りトーストとコーヒーの朝ごはんをいただく。これで今回の山行目的の一つをかなえることができた。

 

さあ、あとは標高2,646mの天狗の頂を踏むだけだ。ゆっくり朝の出立準備を行ない、8時半頃俺たちはお世話になったしらびそ小屋を後にして再び八ヶ岳の森に入っていった。

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雨は、降っていない。青空は見えないが、こころなしか空も明るくなってきた。

 

天狗岳

中山峠までは割と急登が続いたが1時間10分ほどで到着。ここから東天狗岳へ直接向かうルートもあったが、俺たちは黒百合平を経由する《天狗の奥庭》と呼ばれるルートを選んだ。木道を10分ほども進むと黒百合平の黒百合ヒュッテに到着。何かの神事が行われるのか、ヒュッテの前に巫女さんがいてみんなに写真を撮られていた。

f:id:arakabu625:20191029174224j:image(黒百合ヒュッテの前で)


ちかちゃんから「あっちに黒百合が咲いてるよ」と教えてもらった辺りで目を凝らしてみると、思いのほかひっそりと咲いている二輪の小さな黒百合を見つけた。

f:id:arakabu625:20180628181252j:image(黒百合)

 黒百合ヒュッテは喫茶メニューが豊富な人気の山小屋だ。その黒百合ヒュッテでトイレを借り、身支度を整え直して、ここから先東天狗岳までの間に広がる天狗の奥庭というエリアに入っていった。

 

森林限界の境界辺りになるのだろうか、この先はずっと大きな岩とハイマツの登山道が続いていく。縦走部としてはこれまで登った最高峰が4月の大菩薩嶺(2,057m)なので、こんな岩がゴロゴロした道は初めてだ。最初のほうは「なんだかアスレチックみたいだね」なんて軽口を叩いていたが、次第に無言になっていった。

f:id:arakabu625:20180628212031j:image(岩だらけの道)

 

急に展望が開けた。眼下に広がるすりばち池とその周囲の様子に軽く息を飲む。これまでに見たことのない荒涼とした風景。

f:id:arakabu625:20180628190932j:image(すりばち池)

 

岩の登山道を何度も登り下りしながら、f:id:arakabu625:20180628191400j:image(ふうふう)

 

黒百合平を出てから1時間半、俺たちは無事東天狗の頂きに到着した。

f:id:arakabu625:20191029174351j:image(11:50 東天狗岳山頂、ガスで眺望なし)

だけど、ここはまだ東天狗 (2,640m)。今日の目的地はここから300m先にある、北八ヶ岳エリア最高峰の西天狗岳(2,646m)なのだ。さぁ行こう。

 

さっきまでガスの中に隠れていた西天狗がその姿をようやく見せてくれた。

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 20分後、ついに西天狗岳の山頂に立つ。恥ずかしくて大きな声では言えないけれど、縦走部の最高高度記録の大幅更新だ。みんなでハイタッチを交わして、達成感を味わった。

f:id:arakabu625:20191029174553j:image12:16 山頂

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東天狗の山頂に比べ、西天狗の山頂はとても広かった。アイミ君が持ってきていたテント用のグランドシートを囲むようにして座り、さっそくお昼ご飯の準備に取りかかる。といってもお湯を沸かすだけ、俺とアイミ君はアルファ米、ちかちゃんとまりちゃんはスープとパンを用意していた。

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周りはガスがかかっていて眺望はゼロだったのが残念だ。

 

■下山

13時ちょうどに下山を開始。今回は唐沢鉱泉に下山して温泉で汗を流し、そこからタクシーで茅野駅に向かう計画だ。標準コースタイムで唐沢鉱泉まで2時間になっていた。

 

下りも大きな岩がごろごろしていて気が抜けない道が続く。ちかちゃんとまりちゃんは、両手を使えるようにストックをリュックに戻している。岩に白いペンキで書かれている○や⇔などの表示を探しながら慎重に下りた。雨が降っていたら大変だったろうと思うような岩の急坂だった。


ようやく岩場を抜け、樹林帯をしばらく進むと突然開けた場所に出た。第二展望台だ。振り返ると、下ってきた西天狗岳が青空を背景にして良く見える。

「おお、晴れてきてたのか」

いつのまにか青空が広がっていたのも気付かずに、ここまで来たんだ。

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f:id:arakabu625:20180629112644j:image(この岩場を下ってきた)

 

西天狗から視線を45度ほど右にずらした遥か遠くに、なんだか只者でない雰囲気を漂わせている山を見つけた。その姿はガスの中から出たり隠れたりしていたが、遠くからでもわかる急峻な稜線と赤茶っぽい山肌で、周囲の山々を静かに威圧しているようだった。


「あれが赤岳だわ、きっと」

と、ちかちゃんが言った。

 

f:id:arakabu625:20180629111057j:image(彼方に姿を表した赤岳)

「あれが、赤岳か…」

八ヶ岳の主峰赤岳(2,899m)を初めてこの目で見た瞬間だった。いや、これまでも両神山やいくつかの山の頂上で、山座同定の真似事をしながら雪をかぶった八ヶ岳を目にはしていたはずだ。誰かが「赤岳も見えるね」などとメンバーに教えていたのを耳にしたこともあった。しかし、俺はついにこの目で赤岳を捉えたのだ。アイミ君もまりちゃんも、みんな無言でその独特な山容を眺めていた。

 

第二展望台を後にしてからはひたすら下山口の唐沢鉱泉を目指して下る。下る。下る。第一展望台も3秒ほど立ち止まっただけでまた下る。枯尾ノ峰分岐を唐沢鉱泉方面に下る。ひたすら下る。今でも不思議なのだが、あの下りを先頭で進んでいた俺の実感では標準コースタイムよりずいぶん早いはずなのに、唐沢鉱泉には予定より30分以上遅れの15時半頃に着いた。最後は慌ただしかったが、無事下山。俺たちはみんな一目散で温泉のトイレに駆け込んだ。

 

温泉で2日分の汗を流し、温泉に入る前に手配していた(ごめん、そうとは知らずに一人で先に湯船に浸かってました💧)タクシーに乗り込んでJR茅野駅に着いたのが17時過ぎくらいだったかな。茅野駅前の居酒屋で2日間の反省(?)を兼ねた楽しい宴会でビールを流し込み、19時51分発の特急あずさに乗り込んだ。

f:id:arakabu625:20180629111909j:image(お疲れ~)

 

あずさの中でも地ビールの缶を手放さないちかちゃんとまりちゃんに、「ノリが悪い!」と怒られながら俺とアイミ君はホットコーヒーをすする。

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終点の新宿までの2時間と少しのあいだ、今度の八ヶ岳のこととかこれからの山行の計画とかを話して、山を下りてからも楽しい時間が続いていく。そうして22時7分、あずさは終点の新宿駅に到着し、俺たちは駅の構内でそれぞれの自宅方面の電車に分かれ、今回の八ヶ岳山行は無事に終了した。

 

終わり

 

(おまけ)

天狗岳の山バッジ
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しらびそ小屋の手拭い
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パンフレット
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《今回の私的ベストショット》
f:id:arakabu625:20180630094632j:imageアイミ君とちかちゃんと八ヶ岳(ガスに煙る赤岳)

 

おしまい